やらなくちゃ。
探さなくちゃ。
早く、早く・・・。
気持ちは焦るばかりで。

















花断ちの練習をしに、私は早朝から神泉苑へ行った。
風が吹き、花びらが散る。
落ちていく花びらを追い、剣を振ると花びらはひらひらと逃げていく。
「追いかけるんじゃなく、花びらの動きを予測できれば」
花びらを追いかけて剣を振ると、剣がおこす風圧で花びらは逃げていってしまう。
「でも、風の不規則な動きを予測することなんてできるのかしら・・・」
「お前にならできる」
いきなり話しかけられ後ろを振り向く。
すると金髪で青い瞳をした男の人が立っていた。
さっきまで全く後ろに人の気配はなかったはずなのに。
「あなたは?」
口調から私を知っているように感じる。
しかし、私の記憶のなかにこの人はいない。
腰に剣をさげてはいるが、怖いとは感じなかった。
この人から戦う意志が感じ取れないからだ。
でも、警戒をしないわけにはいかない。
私は太刀をかまえる。
「私はお前に仇なす者ではない。これが証になるかわからないが」
「宝玉・・・。あなたも八葉なんですか?」
目の前にたつ彼は髪をどけ、目尻に埋め込まれた宝玉を見せてくれた。
「そうだ、私は八葉だ。それは変わらない、お前が白龍の神子であるごとく」
この人の言うことが正しく、八葉だというのなら敵ではないはず。
「あなたは」
「リズヴァーン」
「・・・私はです。リズヴァーンさん、あなたはいったい何者なんですか?どうやってここに?」
リズヴァーンさんの出現は気配を消していたと考えるより、急に現れたと考えるほうがしっくりとくる。
「今お前が求めるべき問いは私のことではないはず」
「求めるべき、問い?」
「神子、手を見せなさい」
「手を?」
リズヴァーンさんは何を私に伝えようとしているんだろう。
私はそっとリズヴァーンさんの方へ手をだす。
「手が赤くなっている。剣の柄を強く握りすぎてはいけない」
私の手を見るリズヴァーンさんの瞳はとても優しかった。
「・・・はい」
「では、花びらを空中で掴んでみなさい」
「・・・・・・」
言われたとおり花びらを掴もうとするが、剣のときと一緒で風がおこりうまく掴むことができない。
「手のひらを上に向け、花が落ちてくるのを待ってみなさい」
言われたとおりにするが、風が吹き花びらは手のうえに落ちてこない。
「風を感じ、心を風に寄り添わせれば、花を受け、つかまえられる」
はっきりとはわからないが、リズヴァーンさんが何かを教えようとしていることだけはわかった。
「心を風に、寄り添わせる」
「風を、花を、お前を包みつながる万象を感じるのだ」
リズヴァーンさんは剣をぬく。
「風はお前の中にあり、星はお前の上にあり、地はお前の下にある」
リズヴァーンさんの剣が振り下ろされる。
私は綺麗だと思った。
なんの無駄もない剣の動き。
「これが花断ち・・・」
「お前が断つのは花にはあらず」
本当にこの人は何者なんだろう。
とても不思議な人だ。
でも嘘はひとつも言っていない。
会ったばかりの人なのに、私はそう感じた。
私に今必要なことを教えてくれたのだと。
「・・・自分が断つもの。よく考えてみます」
まだわからないことは多いけど、一歩前進することができたんだと思うことができた。
「お前はただ信じたいものを信じ、行いたいことを行いなさい。それがお前の道を拓く」
「私の信じたいもの、行いたいこと。・・・それはいったい、あっ」
顔をあげると、そこには誰も立っていなかった。
いつの間にいなくなってしまったんだろう。
本当に不思議な人だった。
でも夢ではない。
リズヴァーンさんからもらった言葉がちゃんと私の中に存在している。
「私が断つもの、か」
風に揺られ、落ちていく花びら。
私はその様子を見つめながらリズヴァーンさんに教わったことをゆっくり考えてみることにした。







気が付くと空はうっすらと暗くなっていて、
まだ答えははっきりとでていなかったけど私は京邸に戻ることにした。
京邸に戻ると弁慶さんは私の変化を感じ取ったのか神泉苑でのことを聞いてきた。
私はリズヴァーンさんについて何かわかればと思い説明をした。
「その人は九郎の剣の師匠ですよ。僕はよく知りませんが、九郎はたいへん尊敬していますね」
「弁慶さん、あの人はどこに行けば会えるんですか?」
リズヴァーンさんに聞きたいことがたくさんある。
「鞍馬山に行けば会えると思いますよ」
「できれば明日にでも一度行ってみたいんですが」
リズヴァーンさんからは花断ちだけでなくいろんなことを学びたい。
私はみんなを守るため力が欲しい。
「私は用事があるので景時に案内させましょう」
「用事ですか?」
「えぇ、西の方へ調査に。景時には私から話しておきますから、今日はゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
おやすみなさい、と挨拶をして部屋を出る。


もう空は真っ暗で、月がよく見えた。
「満月、か」
現代とは違いこの世界の夜空はとても綺麗だった。
月の光も、星数も全く違う。
「今この月を、将臣君たちも見上げているのかな」
一緒に見ることができたらいいのに、そんな思いを胸に隠し私は部屋に戻って寝ることにした。









  
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