「ここは・・・」
目の前に広がるのはついこの間まで毎日のように見ていた学校の教室。
さっきまで京邸にいたはずなのに、どうして私は学校にいるんだろう。
「・・・おかしい」
普通学校ならばいろんな音が聞こえてくるはずだ。
なのに今この学校内はとても静かだ。
私だけの空間。
それはまるで――
「夢の中みたい」
夢の中にいるのに意識がはっきりしていることがたまにある。
「これ」
教室の中にらくがきがされている机を見つけた。
見覚えのあるらくがき。
その机はが使っているものだ。
本当にここは私が通っている学校なのだ。
カタンッ。
「・・・っ」
後ろで何か物音が聞こえて私は振り返った。
そこには、
「将臣、君?」
別れたときと同じ、制服姿の将臣君が立っていた。
「」
「将臣君・・・・会いたかった」
瞳にうっすらと涙がたまる。
普段なら“会いたかった”なんて口にできないけど、会えなかった時間と夢の中ということが私を素直にした。
「俺もだ。ずいぶんと長い間会ってなかったような気がするな」
「・・・うん」
生まれた頃から毎日のように一緒に過ごしてきた。
こんなに会わなかったのは初めてなんじゃないだろうか。
「、なにかあったのか?」
「え?」
私は驚く。
会ってすぐに気付かれるとは思っていなかった。
「なんとなく、な。お前のことならある程度わかるんだよ。昔からの仲だろ」
「・・・やっぱり将臣君には隠せないな」
将臣君はいつも私が悩んでいるとき将臣君はすぐに気付いてくれる。
「俺には黙ってるだけ損だぜ。話せることなら話してみろよ」
いつでも将臣君は私の沈んだ気持ちを軽くしてくれる。
「そう、だね。・・・やらなくちゃいけないことがたくさんあって、
時間が足りなくて、焦ってるの。焦っても意味がないことはわかってるのに・・・。私じゃだめなのかな」
まだ1日しか経っていないけど、いつ自分が花断ちを習得できるのか全くわからない。
明日リズヴァーンさんに会ったとしても、何も現状を変えることができなかったらと思うと不安が大きくなっていく。
「お前はだめじゃねぇだろ」
「自分に自信が持てないの。前に進めなくて、時間がただ過ぎてく」
「それがどうした。気が焦って不安ってことはそれだけちゃんと前に進んでるってことさ。
時間は努力してる分だけ早く感じるんだよ」
「・・・・」
将臣君の言葉は私の不安を一気に消してしまう。
とまったと思っていた涙が、また溢れそうになる。
「昔から俺はお前のことを知ってる。その俺が言うんだ。少しは信じろ」
「うん。信じる。将臣君のこと信じるよ」
「そこは俺じゃなくて、自分を信じるって言うとこだろ」
「そうだね」
そう頷きながら、自然に笑っている自分がいた。
最近不安で心から笑うことができていなかった。
将臣君は私にたくさんのものをくれる。
「将臣君は?」
私にもできるのなら将臣君に何かをあげたい。
「俺?」
あたえられる人になりたい。
「そう。悩み事はないの?」
「今は悩んでるひまはないって感じだな。俺もやらなきゃいけないことがあってさ、京の法住寺にきてるんだ」
「京の法住寺?私も今京にいるのよ」
法住寺といえば先日九郎さんに会うため行った場所だ。
もし同じ京にいるなら会いたいと私は思った。
「会うことはできないのかな?」
「そうだな・・・。京を出る前に下鴨神社にに寄るつもりなんだ。そこでなら会えるかもしれないな」
「下鴨神社ね。約束よ」
この約束は夢でないといい。
私はそう思いたかった。
「あぁ、いいぜ。だけどあんまり待たせるなよ。俺はそんなに気が長くねぇからな」
「わかってるよ」
「――っと、そうだ。この夢の中なら、あるかもしれないな。ちょっと待ってろよ・・・」
将臣君はそう言って机の中をさぐる。
そこは将臣君の席だった。
「おっ、あったぜ」
将臣君の手には懐中時計のような物が握られていた。
「・・・オルゴール」
「あぁ、蔵を掃除してたら出てきたんだ。ちょっと古びてるが、味わいもある」
「そうだね」
将臣君はオルゴールの蓋をあける。
オルゴールが奏でるきれいな音色。
その音はなんだか心を落ち着かせ、優しい気持ちにさせる。
「これお前にやるよ」
「・・・大事なものなんじゃ」
蔵に大事にしまわれていたものを私がもらっていいのだろうか。
将臣君の言葉は嬉しかったけど素直に受け取ることはできなかった。
「遠慮するなよ。蔵で見つけたときお前にやろうって思ったんだ」
「私に?」
「こんないい音だすのに、蔵にしまっとくのはもったいないだろ?なら大切にしてくれると思ったんだよ」
オルゴールを私は受け取る。
将臣君にそこまで言ってもらって“もらえない”なんて言えない。
どうして将臣君がそう思ったのかはわからないけど、思ってくれたことが嬉しい。
「ありがとう。大事にするね」
「あぁ」
また私の宝物が増えた。
今までもいろんな物を将臣君からもらった。
将臣君からもらった物は全部私の宝物だ。
「・・・あっ」
将臣君が嬉しそうに笑う笑顔がなんだか少し遠くなる。
目に映る学校の風景が色褪せていく。
「そろそろ別れの時間みてぇだな」
2人だけで静かだった世界に音が増える。
鳥の泣き声。
人の声、足音。
「そうだね」
「なに、どうせまた会えるだろ。下鴨神社で待ってるぜ」
「うん。またね」
「・・・・・」
目を開けると昨日と同じ京邸の天井が映った。
「おはよう、。目が覚めたみたいね」
戸の所には朔が笑顔で立っていた。
「朔。・・・朝、か」
さっきまでの将臣君との会話はやっぱり夢だったのだ。
夢なんだろうってわかってたけど、将臣君と話しているのは現実のように感じていた。
「大丈夫?」
「うん、なんでもない。ちょっと夢を・・・あ、これ・・・」
枕元には夢の中で将臣君にもらったオルゴールがあった。
オルゴールに触れると蓋があき、曲を奏でる。
その曲は夢の中で聞いたものと同じ心を落ち着かせ、優しい気持ちにさせる音色。
「綺麗な音色ね。の?」
「うん」
なんでこのオルゴールはここにあるんだろう。
あれは夢の中のできごとだったはずなのに。
「大事な人の夢でも見ていたのかしら。もう少しゆっくりなさい。食事の用意ができたらまた声をかけるわ」
「朔っ」
部屋を出ていこうとした朔を呼び止める。
「どうしたの?」
「今日鞍馬山に行くんだけど」
「兄上から聞いているわ。九郎殿の剣の師に会いに行くのよね?」
「そう。・・・鞍馬山に行く途中で下鴨神社に寄りたいの。無理かしら?」
下鴨神社は将臣君と夢の中で約束した待ち合わせの場所。
夢の中の話だけど私は信じてみようと決めた。
このオルゴールが私と将臣君をきっとつなげてくれるから。
「下鴨神社なら寄れると思うわ。兄上に伝えとくわね」
「ありがとう」
朔は部屋を出ていく。
下鴨神社に行けば将臣君に会える。
確証はないけど私は信じていた。
私は立ち上がる。
一歩一歩焦らず前へ進むために。
→
あとがき
今回はなんかついつい長くなっちゃいました。
まるで3話のときのようですねぇ。
リズ先生と将臣君の夢わけてもよかったんですが、花断ちで妹ちゃんが悩んでるのでわけたくなかったんです。
背景を変えたかったのでページはわけました。
ちゃんとリズ先生が登場しました。
まだ妹ちゃんにとって先生ではないので呼び方はリズヴァーンさん。
書いてて違和感を感じてしまいました。
フルネーム(?)で呼ぶことって私は少ないので。
今回は弁慶さんも登場です。
弁慶さんには福原にいっていただかなくてはいけないので。
今回の会話で弁慶さんのちょっとした黒さはだせたでしょうか?
弁慶さんはやっぱりいかに黒くかけるかが私にとってのポイントなんです。
次は章が変わるまででてこないなぁ・・・・。
黒さを学ばなきゃですね。
今回の話のメインはもちろん初の恋愛イベントです。
やっと夢の中ですが将臣君との再会。
大事な話なのでじっくり書きました。
夢ということでとっても素直な妹ちゃんです。
精神的にすこーし弱っているときなのでとくに。
ちゃんと書けてるかちょぃと心配です。
次回予告です。
ゆっず――――――――っ。
以上。
感想ありましたらおひねりにて。
―嵐楽 碧―