ゴールは終わりではなく、スタートなんだと聞いたことがある。
私たちにとって橋姫神社はまさにそのとおりだったのかもしれない。








源 氏








「ここが橋姫神社よ」
ここに来るまで何度か戦闘になった。
しかし一度に相手にする数が少なかったため、なんとか目的地に到着することができた。
「源氏の人たちと合流できそうね」
「源氏?」
朔の言った言葉に私は反応をしめす。
もしかして今私たちのいる世界は・・・、と考える。



「そこの者!何をしているっ」
誰かの怒声で思考がストップする。
振り返ると男の人が立っていた。
「え?」
一瞬だったけど、男の人の体が光ったように見えた。
「九郎殿・・・」
この男の人が朔の言っていた人たちのことらしい。
「景時の妹御か。霧の中で迷ったのか。・・・その者たちは?」
「私はです」
私は一歩前に出る。
「こんな戦場を出歩いていたのか?木曽の女兵、ではなさそうだが・・・」
男の人は私、譲くん、白龍をそれぞれ見たあと朔へ視線を戻す。
「まあいい。朔殿、女人の足で強行軍はつらいかもしれないが、隊から離れられては迷惑だ。
命を落としてもおかしくない。軽はずみな行動は差し控えてもらいたい」
男の人は真剣な目をしている。
きつい事を言ってはいるけど、朔を心配していたんだろう。
でも、ちょっと言い方がきつすぎる気がする。
「・・・申し訳ありません」
「ちょっと待って下さい。はぐれたのは問題かもしれません。でも、話を聞かないで一方的に怒るのは間違ってると思います」
朔の謝っている姿を見ていると、黙っていられなかった。
「話?」
「朔は怨霊に囲まれて動けなかったんです。それでも、私たちを助けてくれました」
「平家が放った怨霊か。だが、その怨霊はどうしたんだ。助けたということは朔殿、あなたが神子の力で消し去ったというのか?」
「いいえ、私ではありません。この子の力です」
「こいつが・・・やった?」
男の人はとても驚いた顔で私を見る。
いきなり現れた少女が怨霊を封じたと言われれば誰でも驚くだろう。


「九郎、その辺にしてはいかがですか。無事に見つかったんだからもういいでしょう」
また一人男の人が出てきた。
「すみません、朔殿。本当は心配していただけなんですよ。君に何かあったら僕たち、景時に合わせる顔がありません。
えぇと、そちらの可愛らしいお嬢さんは・・・さん、でしたね?」
「は、はい」
さらっと“可愛らしいお嬢さん”と言ったことに驚き、すぐに返事ができなかった。
朔を慰めることを忘れず、普通の男の人なら照れて言えないような言葉を簡単に口にする。
それに自分の内側を相手に感じ取らせない笑顔。
私は直感でこの人は黒いと思った。
「申し遅れました。僕は武蔵坊弁慶と言います」
弁慶さんが名乗ったあと、さっきの男の人のように光ったように感じた。
「それで、こちらの仏頂面なほうが・・・」
「名なら自分で名乗る。九郎だ。源九郎義経」
「なんだって!源義経っ」
譲君が驚く。
私たちの世界の歴史上でとても有名な名前。
「義経・・・鎌倉幕府、源頼朝の弟・・・」
朔の口から『源氏』と聞いたときからもしかしてって考えていた。
ついこの間まで日本史の授業で習っていた源平の戦。
その時に覚えた名前の人物が目の前にいる。
「兄上を、鎌倉殿を呼び捨てるな。お前たち、何者だ?」
「あ、俺たちは別に怪しいものじゃないんです。違う世界から来たばかりでちょっと気が動転してて・・・」
九郎さんに睨まれ、譲くんは慌てて弁解しようとする。
「違う世界?いったい何を言ってるんだお前は」
「えっ、えっと・・・」
譲くんはまた九郎さんに睨まれ慌てる。
まだ自分もはっきりと状況を把握できていないのに、説明を求められても困ってしまう。
「そうか、この石の意味は・・・」
何かに気付いたのか弁慶さんは私を見た。
さん、君は白龍の神子ではありませんか?」
「・・・もしかしたらそうかもしれません」
朔、黒龍の神子の対にあたる白龍の神子。
朔も、白龍も私が白龍の神子だと言う。
2人を信じていないわけじゃないけど、はっきりと私は神子だと言い切れる自信がない。
「確信はないのですか?」
「まだよくわかっていなくて、絶対にとは言えません。八葉の宝玉のようなものもない。
 でも封印の力を持っているから違うとも言えない」
「なるほど、慎重ですね」
弁慶さんは笑みを浮かべて言った。
「まだこの世界に来たばかりですから」
なんだか尋問を受けているような、試されてるような気分になる。
弁慶さんたちにとって私たちはいきなり現れた怪しい人なんだろう。
だから弁慶さんが問い詰める側で、私たちが問い詰められる側なのは仕方がない。
わかっているけど、今の自分の位置に納得ができない。
「九郎殿、弁慶殿、この子は白龍の神子です」
「朔」
私が考え込んでいると、隣にいた朔がはっきりと言い切った。
「ここに至るまでに、怨霊を封じる力も発現しています。白龍の神子以外の誰が封印をなしえましょうか」
「京を守るという龍神の神子の話か。ただのお伽話じゃないのか?・・・だいたい今はそれどころじゃない。
 悪いが、この話は後回しだ。この宇治川を制することが京を手に入れられるかどうかの別れ目になる」
宇治川、義経、その二つから考えられるのは木曽義仲の戦。
「木曽義仲、ですか?」
「木曽とはほぼ決着がついている。平家が怨霊を使ってちょっかいを出してきているんだ。
 木曽が去る機会を狙って京を取り返そうという魂胆だろう」
九郎さんはため息をつく。
きっと怨霊との戦いに苦戦してるんだろう。
「いずれにしろここは安全じゃない。お前たちはもっと後方に下がっていろ」
「九郎さんたちは?」
「俺は平家の陣を攻める」


さっき九郎さんは怨霊は平家が放っていると言っていた。
平家の陣へ行けばたくさんの怨霊がいるんだろう。
怨霊は封印しなければ消えはしない。
私にしかないという封印の力。
この戦いでその力がきっと必要になってくるはず。


「九郎さん、私も連れていってください」
後方に逃げるのでなく、私は自分のできることをしたい。
「何を言ってるんだ。まさか、本気じゃないだろうな」
九郎さんは驚いた顔で私を見る。
さん何を言ってるんですか、これは戦争なんですよ」
「わかってる。でもこの戦いで封印の力が絶対に必要になるはず」
「そうですけど・・・」
譲くんが心配してくれているのわかっている。
でも私は九郎さんたちについていくともう決めていた。
「・・・もう決めたんですね、わかりました。俺も行きます。かまいませんね」
ずっと一緒に育った幼なじみ。
私の決めたことは絶対にやり通すということをわかってくれている。
「もちろん」
そして、譲君がついていくと言うだろうってことを私もわかっていた。
「馬鹿なことを言うな、敵は雑魚ばかりじゃないんだぞ。お前たちを守りきれるかどうかわからない」
「けれど、九郎。平家は怨霊を連れている。白龍の神子、そして八葉の力。
 彼女たちの助力はありがたいのではありませんか」
「だが・・・」
弁慶さんの言うとおり、私たちがついていけば勝てる確立はあがる。
それを九郎さんはわかっていないわけではない。
九郎さんは私たちの身の安全のことを考えてくれているのだろう。
「九郎さん、私は小さい頃から剣道を習ってきました。
 戦力になれるほどでなくても、自分の身くらい守れます。足手まといにはなりません」
ついていくと決めたとき、同時に自分のなかで決心した。
迷惑だとわかっていて同行させてもらうのに護衛まで求めるのは間違ってる。
それに私は自衛の力を持っているんだ。
自分の身は自分で守る、当たり前の決意だ。
「・・・仕方ないな。わかった、ついてくるといい。だが、俺のそばから離れるなよ」
「はい」
「平家の陣は宇治上神社だ。行くぞ」
九郎さんが隊に指示を出し、宇治上神社を目指す。
宇治上神社ではいったいなにが私を待っているんだろう。
怨霊を操る平家ってどんな人たちなんだろう。
不安なこともある。
でも私は今一人じゃない。
たくさんの人が私のまわりにいる。
その人たちの力になりたい。
だから私は進む。
















あとがき
 九郎さんと弁慶さんがやっと登場で、八葉が3人そろいました。
 そしてゲームでの1週目ではありえない、九郎さんについていくという展開です。
 この進み方が遠風双珠ならではなんです。
  ここで前回の次回予告文の解説をいれたいと思います。
 多分誰もが意味がわからなかったと思います。
 『犬の散歩は宇治川で。でもいったい飼い主は誰???』という文でした。
 犬=九郎さんと考えてください。
 闇音と話してて九郎さんは犬系かな、ということで。
 あんまり深い意味はないですのでご注意を。
 
 今度はまともな(?)次回予告。
 前から来るのは一体だれ?
 敵か味方かそれとも・・・。
 
 感想ありましたらBBSまたはおひねりにて。

 ―嵐楽 緑―



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