私たちがあの日流れ着いた屋敷は、平家の人たちのものだった。
ちゃんと話を聞いて自分達が異世界に、過去に来ちゃったことを知った。
将臣くんは清盛こと清ちゃんに死んじゃった息子の重盛に似ていると可愛がられ、私は並の男の人より
強い剣の腕前をかわれた。
そして最初はお客さんとしてって感じだったけど、いつのまにか家族のように一緒に暮らすようになった。








実 り








平家は都落ちした。
歴史と難しいことが苦手な私はなんでそうなったのか、よくわかんなかった。


「収穫祭だ〜」
私は仁王立ちし、叫んだ。
みんなで耕して、種をまいて育てたじゃがいもに大根。
収穫の日が本当に楽しみだった。
さん、本当に嬉しそうですね」
「うん。だってみんなで育てた野菜だもん」
「そうですね」
「お前ら、話してないでさっさとやるぞ」
「はーい」
畑にそろったメンバーは私、将臣くん、経正さん。
知盛は畑の近くにある木陰で休んでいる。
知盛はなんでかわからないけど私のことを気に入ってくれているらしい。
私に戦いの剣を教えてくれた。
生き延びるために。
「知盛ーっ」
私は大声で名前を叫びながら知盛のもとに走る。
「知盛も一緒にやろうよ」
「俺が、か?」
知盛はゆっくりと顔をあげ、私を見る。
「種蒔きとか全然手伝わなかったでしょ?」
「なぜ俺がしなければならない?三人もいれば十分だろう」
知盛は鼻で笑った。
「働かざる者、食うべからずだよ」
私がそう言うと知盛はすごく驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「お前にそんなまともなことを言われるとはな」
「それってどういう意味?ってどこに行くの?」
知盛は立ち上がり畑の方へ歩きだした。
「働かざる者、食うべからずなんだろう?」
「うんっ」
知盛も一緒に収穫をしてくれるってことがわかって私はすごく嬉しかった。
楽しいことはやっぱりみんなでやらないと。



「知盛、以外と手際いいじゃねぇか」
軽がると大根を抜いていく知盛。
私は1本抜くだけでも苦労しているのに。
「やっぱり知盛にも手伝ってもらったのは正解だったね。あ〜美味しそうな大根。食べるの楽しみ」
「本当ですね。愛情がある分、他の物とは比べられないほど、美味しいでしょう」
「経正さん、この野菜あとであっつーの所に持っていこ」
あっつーこと敦盛は経正さんの弟。
あっつーは怨霊としての力がまだ不安定だから地下の牢にいれられてる。
「そうですね。敦盛は喜んでくれるでしょう」
そう言ってる経正さんが嬉しそうだった。
きっとあっつーの喜んでる顔を想像してるんだろう。
経正さんは本当にあっつーのことを心配しているから。
「さぁ、頑張るぞー」
私は気合いをいれて大根を抜いていく。
「野菜・・・」
私は抜いた大根をみつめる。
この世界にきて清ちゃんやみんなが優しくしてくれたから普通に生活を続けることができてる。
きっと着いた場所が別の屋敷だったら今頃私たちは生きていないかもしれない。
それを思うと今の暮らしはすごい贅沢なんだと思う。
それをわかっていてもつい考えてしまう、今まで過ごしてきた世界のことを。
便利なもの、洋食、いろんなものが恋しくなっちゃう。
「野菜、か」
私はぽつりとつぶやいた。
「どうした?」
「なんか野菜見てたらゆっずーがたまに作ってくれた、ほうれん草と人参のケーキ思い出しちゃった」
私が人参が苦手だった頃、ゆっずーが苦手を克服するために考えてくれたケーキ。
「あぁ、譲のケーキか。あれは美味かったな。のマフィンも美味しかったな」
「うん。私はチョコ味が好きだったなぁ」
「そう、だな・・・」
なにも考えなしにふってしまった話題。
私は話したあとに後悔してしまった。
私たちは今だにちゃんとゆっずーに会えてない。
2人が無事なのかもわからない。
こっちに来てすぐの頃はよく話題にあげてたけど、最近は怖くて話せなかった。
明るかった雰囲気が少し暗くなってしまった。
「その名は久々に聞く」
「知盛?」
と譲とは誰だ?」
知盛は昔よく聞いた2人の名前が気になってたみたいだ。
の妹、譲は俺の弟だ」
「お二人にも兄弟がおられたのですね」
「まさかお前が姉とはな」
知盛は信じられないって顔をしている。
「姉って言っても双子だからあんまり関係ないけどね。ちゃんはね、すっごく可愛いんだよ」
私はちゃんのことを思い出し説明する。
久々に口にするちゃんのこと。
私の大切な半身。
の自慢話は長いぞ」
「だって大好きなんだもん。で、聞いて聞いて・・・」
私はちゃんのことじゃなくてゆっずーのことも話した。
楽しい気持ちで2人の話をした。



「終わったーっ。もう日が落ちるね」
空を見上げると綺麗な夕焼けが広がっていた。
なんとか収穫を今日中に終わらすことができた。
なんだかんだ文句を言いながらも知盛が最後まで手伝ってくれたからだろう。
「運ぶか」
野菜を台車に乗せる。
「あ!そーいえば惟ちゃんは?」
私は惟ちゃんこと惟盛のことをすっかり忘れてしまっていた。
朝はやっと収穫ができることに浮かれ、知盛が以外と手伝ってくれたことに驚き、収穫中はちゃんたちの話に盛り上がってしまったせいだ。
「そういえば今日は見ていませんね。昨日話はしたのですが」
「でも屋敷にはいるよな?あいつ平家一門がなぜ畑仕事など〜っとか言ってずっと文句言ってたからなぁ」
将臣くんはため息をつく。
惟ちゃんはまだ都落ちしたショックから立ち直ってない。
平家一門っていうプライドがすごく高い。
「俺にここまで手伝わせといて、あいつはなにもしないのか?」
「そうだよね。運ぶくらいは手伝ってもらわなきゃ」
「そうですね。では私が呼んできますね」
経正さんはそう言って屋敷へ歩いていった。
「じゃあ惟盛がくるまで休憩だな」
私たちはしゃがんで積まれた大根とじゃがいもをみる。
太くて長い大根と丸っこいじゃがいも。
「・・・野球」
私はぽつりとつぶやいた。
大根がバットを、じゃがいもがボールを思い出させた。
「野球?」
「懐かしいね。小さい頃キャッチボールとかしたね」
「懐かしいな。ん、どうした知盛?」
知盛は不思議そうな顔をしていた。
「やきゅうとはなんだ?」
「あ、そっか知盛は知らないよね。簡単にいえばこのじゃがいもみたいな大きさの丸い玉を投げて、大根みたいな形の棒でうつ球技」
私はじゃがいもと大根を持って説明をした。
「よくわからない遊びだな」
「今の説明じゃな。まぁ今説明するのはちょっと難しいよな」
「じゃ、やろう。はい」
私はじゃがいもを将臣くんに渡し、少し離れる。
「は?」
「さ、将臣くん。どーんとこいっ」
大根をバットのようにかまえる。
「え?」
将臣くんは私のやりたいことがうまく伝わらなかったらしい。
「わからないなら実践あるのみ。将臣くんがピッチャーで私はバッター。知盛見ててね。さぁこい!!」
「なるほどな。じゃあいくぜ」
将臣くんは笑顔でそう答えた。
ピッチャー将臣くん第一球(じゃがいも)を、投げます。
じゃがいもが私へ飛んでくる。
私はタイミングをあわせてバット(大根)を振る。


ボキッ。


「うっ」
大根にじゃがいもが当たった瞬間大きな音がした。
大根がじゃがいもに耐えきれなくって折れてしまった音。
ぼとり、とじゃがいもが地面に落ちる。
でも、耐えれなかったのは大根だけじゃない。
私の手も耐えることができなくて、大根を離してしまった。
折れた大根は弧を描いて飛んでいく。
「あーあ」
大根が飛んでいく先に惟ちゃんと惟ちゃんを連れてきた経正さんの姿があった。
「どうして私が手伝わなくてはいけないんですか」
無理矢理連れられてきたんだろう、惟ちゃんは文句を言いながら歩いてくる。
「あっ」








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